平和

平和があらわすものは
平和ではない
それはたぶん
ぼくの平和でも
あなたの平和でもなく
存在しない
だれかさんの平和でもない

不在

あなたの不在に立ち会いつつ
不在というものの本質に思いをめぐらす

たとえば
あなたの存在がわたしにとって
わたしが勝手にこしらえた
わたしの妄想であるならば
あなたはつねに不在である

あるいは
わたしの妄想さえも
あなたの存在によって
想起されたものであるならば
あなたはつねに存在する
あなたの不在さえもが
あなたの存在をうらづける

恋愛問答

—わたしのことはすきですか?
—神は存在しますか?
—質問にこたえてくださらないのですね。おっしゃりたいのはあなたの質問について、後半の存在しますか、がより重要だということでしょうか。
—ええ、まあ、そういうことです。
—わたしの質問にもその論理をあてはめたいのですね。つねにすきにきまっていると。
—ええ、まあ、そういうことです。
—わたしのかんがえはちがいます。
—ほう、というと
—わたしの質問は、あなたはわたしのことが、という前半の部分がより重要で、ひとり歩きしているすきですの部分なんか、ほんとはどうでもいいんです。むしろ、あなたはわたしを、という偏った指向性の部分のほうが、よりすきですの本質をしめしているような気さえするのです。

天秤

自分の恋心と運命を
天秤にかけつつも
自分の恋心も運命も
吹けばとぶような軽さで
あったなら
そんな軽さくらべに
なんの意味があるのかと
思わずにはいられない

つめたい雨

いよいよ
夕方から本降りとなった
つめたい雨が
わたしの感情さえも
ことごとくあらいながして
くれたなら
いつかわたしの感情も
それがもはやなにごとも
あらわしえない
粒子へと還元されるだろう

いよいよ夕方から
本降りとなった
つめたい雨が
わたしの感情さえも
ことごとく
あらいながしてくれる日が
いつかやってくるだろう
そのときにはもう
わたしの感情は
なにごとも
あらわしえないだろう