女に袖にされたという
ただそのことだけでも
旅に出る価値は十分にある
詩と恋愛
恋愛をしているあいだは
恋愛のために詩をかき
恋愛がおわってしまったあとは
恋愛のしぼりかすで詩をかく
意志
わたしがあなたの内面について
把握していなかったのと
もしかしたら同じくらいに
あなたも私の内面について
把握することはできなかったのではないか
ひとりの人間を構成するものが
その場その場の感情以外にもあるのだ
と信じたうえでの話だが
冷めた恋
コーヒーなどの飲み物について
さめてもおいしい
とあなたは言っていたけれど
冷めた恋については
さめてもなおよい
とあなたは言うだろうか
あるいは
冷めた恋はもはや恋として
存在しない
とおっしゃるだろうか
A Haiku of Spleen
寒空に死んだ顔してバイク売る
夢
夢という
近い将来への野望を
まじめにいだくとき
その夢が
過去の私を将来の私に
約束しないとき
私は他人をいくらか
あざむいている気持ちになる
そうでなくては
夢などではない
レコーディング
なぜだかわからないが
あたまのなかみがすこしずつ
こぼれていく
なぜだかわからないが
自分だけが世の中から
とりのこされて
終わっていく
そんな気がする
妄想鍛錬
世間話もほどほどに
ぼくをだきしめてくれないか
だって冬は
とてもとてもさむいから
冬
まっくらな風呂場で
プラスチックのいすに座り
たばこの先の
ほのおをみつめる
代償
タイムマシーンに乗るたびに
より遠くの未来にとばされてしまう男にも似て
わたしは
ハードなサイクリングに出かけるたびに
より高次の疲労を負って帰宅する